A.「老人ホーム」というとかつては、あまり良いイメージがなかったと思います。「姥捨て山」と形容されたこともありました。2000年の介護保険施行前は、介護が必要な人のために行政が「措置」として入所を決めていた(特別)養護老人ホームと、一部のお金持ちの方が悠々自適に老後を過ごす有料老人ホームに大別していました。
しかし、介護保険ができてから、老人ホーム(高齢者住宅)市場は一変しました。多くの民間事業者も有料老人ホームや高齢者住宅事業に参入し、サービスや設備を競うようになり、各段に向上してきたように感じます。
一方で、数が増えた分トラブルも否めません。また、あとから制度改正や新しい住まいの形などもどんどん増え、老人ホームといってもその内容や仕組みはかなり細分化され非常に複雑な状況になっています。様々な分類で考えられ、それぞれの分類がまた複雑に絡んでいます。
●運営主体
1. 公的な施設
2. 民間の施設
●入居時の心身の状況
1. 入居時は自立(高齢者の元気なうちの早めの住み替え)
2. 入居時は要介護(介護を目的とした施設)
●介護の提供のされ方
1. 施設本体が介護サービスを提供する(最初から付属)
2. 介護サービスは外部から自分で選ぶ
3. 介護サービスは一切ついていない(健康自立で暮らす)
など、そのほかにもさまざまな観点から分類することができます。
<高齢者の住まいの分類の例>
◆特別養護老人(特養)ホーム
特養は国や自治体から補助金が出ているホームですので、利用者が払う費用が少ないというのが魅力です。かつては大部屋が主流でしたが、個室化やユニット化(少人数が1グループとなって共用部を利用)も進みました。介護施設では一番安価に入所できるのが特徴ですが、その分申込者が多く、待機者は施設によっては数百人というところもあります。度重なる改正で、入所費用も見直され、2015年度には大部屋(4人部屋)でも月10万円~15万円程度が一般的になっています。また、入所条件は「要介護3以上」となりました(2015年度改正)
◆ ケアハウス
軽費老人ホームの一種です。公的な補助が出ているので、比較的低価格で利用できます(利用料は入居者の年収などによって異なります)。ただし、「ケアハウス」といっても介護サービスは原則ついていません。基本的に入居資格として、「自分の身の回りのことができる人」があげられています。10畳程度の部屋にミニキッチンとトイレが付き、共用部に浴室や食堂があるものが一般的です。職員は緊急時や相談員として滞在しますが、介護はしません。日常的に介護サービスが必要になってくると、退居しなければなりません。一部「特定施設」の指定を受けているケアハウスでは、介護も提供される場合があります。
◆高齢者認知症グループホーム
認知症と診断された高齢者が入居できるホームです。居室は個室で、共同でキッチンやリビング、浴室を使用します。グループホームは施設をユニットと表現し、1ユニットには定員が9名迄です。別名共同生活介護といわれるように、少人数で共同生活をし、入居者が協力しあいながら、買い物をしたり、食事を作るなど日常生活を過ごす場です。介護職員は24時間体制です。ただし、重度の介護が必要になると退居しなければならない施設もあり(ターミナル対応ができない)、事前に確認をしておいたほうがよいでしょう。
◆ 有料老人ホーム
民間企業が運営する代表的な老人ホームです。補助金などがでていないので、公的施設と比較して利用料は比較的高くなります。一方で、設備面やサービス面では競争が働き、オリジナリティが出ている施設も多くあります。有料老人ホームは3タイプ(類型)に分かれます。基本的には介護が必要になった場合の対応が下記のように異なります。
① 健康型有料老人ホーム
契約を解除し、退居しなければならない
② 住宅型有料老人ホーム
外部の訪問介などの介護サービスを利用しながらホームでの生活を継続することができる
③ 介護付有料老人ホーム
ホームが提供するサービスを利用しながらホームでの生活を継続することができる
介護が必要になった場合の対応だけでなく、入居する際の条件やサービス内容なども運営会社によって異なります。同じ「有料老人ホーム」といっても全く異なる場合も多く、費用も高くなりますので、選ぶ際にはしっかりとした情報収集が必要です。弊誌「もも百歳」でも有料老人ホームなどの解説をしています。
◆サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
比較的新しくできた制度で「高齢者住まい法」に基づいた高齢者に適した住宅です。「サービス」という名前に勘違いしやすいのですが、法律上は「安否確認」と「生活相談」がサービスの定義です。食事や介護は原則ついていません。ただし、事業者が任意で食事や介護サービスをつけている場合が多くみられます。しかし、サ高住はあくまでも賃貸住宅です。住まいの契約と食事や介護の契約は別になるので注意してください。本来は、高齢者が早めに安全な住宅に住み替える目的でしたが、実際には「介護型」のサ高住が多くを占めています。
A. 高齢者の住まいの種類やサービス内容によって異なりますが、入居時の心身の状態により大きく異なります。
◆自分で身の回りのことができる人
基本的に今の生活を大きく変えずに引越しできます。24時間スタッフがいるので、防犯、防災の観点からは安心できる環境にあると言えるでしょう。万が一なにかあっても連絡すればスタッフが対応してくれます。ホームのタイプによって異なりますが、介護が必要になっても対応してくれるケースがほとんどです。また、栄養バランスの考えられた食事を摂ることができるので健康的になったという方も多いです。さらに、ホームで共同生活を送ることで、入居者同士あるいはスタッフとのコミュニケーションが発生し、刺激のある生活を送ることができます。
◆ 介護が必要な人
プロによる介護サービスを受けることができることが一番にあげられます。家族だけの介護ではどうしてもストレスがたまり、最悪の場合「虐待」に結びつくケースもあります。肉体的な介護(食事介助や入浴介助など)は介護スタッフが行うので、家族は精神面での支えに特化することができるでしょう。また、入居者同士やスタッフなど他人とコミュニケーションをとる場が増えるので、刺激のある生活を過ごすことができます。ホームに入居して介護度が改善したというケースもあります。
高齢者の住まいに住み替えるいうことは、新しい環境になるということですから、不安があるのも当然です。しかし、様々な利点があるのも事実です。まずは資料を取り寄せたり、近くの施設を見学して、住み替え先での生活の様子を実際に目で見てみましょう。
Q3.どういう人が老人ホームに入れるの?
A. 入居条件は高齢者の住まいの種類によって異なりますが、入居するための条件は大きく5つあります。
① 経済的な条件
公的ホームである特養でも月10万円前後は必要です。さらに、有料老人ホームでは低価格が進んでいるとはいえ、入居時一時金には500~数千万(入居金不要の場合もある)、月々の費用としては20万円程度は必要になります。この金額を退居するまで払い続けていける人でないとホームへの入居は難しいでしょう。
② 介護度
要介護認定を受けているかどうかで入居できる施設、入居できない施設があります。経済的条件や年齢条件をクリアしていても、要介護認定を受けているために入居できない施設もあります。逆に要介護認定を受けている人でないと入居できなホームもあります。入居時期を考える上でも重要な要素になってくるので、ご自身もしくはご家族がどちらになるか、また介護度については正確に把握しておきましょう。
③ 認知症の有無
認知症高齢者グループホームは認知症と診断された人のみが入居できます。逆に認知症が進んだ場合、退去となる施設も少ないながらあるかもしれませんので、事前に確認しておきましょう。
④ 在宅医療の必要性
胃ろうや酸素吸入などの在宅医療を必要とする人の場合、施設側に受け入れ態勢があるかどうか(医療従事者がいるかどうか)注意が必要です。
⑤ 年齢
一般的には65歳以上という条件が多いようです。施設によっては年齢により費用が変わる場合もあります。2名で入居する際には条件が変わる場合もありますので、施設に確認してみましょう。